デザイン画に生命を吹き込む
原型師という匠
スタージュエリーのものづくりを語るうえで欠かすことができないのが、原型師たちの存在。ヨーロッパの老舗ジュエラーには原型師がいることが多いが、日本では、このように専属の原型師を抱えるブランドは他にないと言われている。精緻な手作業で、ひとつひとつ丁寧に仕上げていく原型師の仕事。その匠の世界を知ることで、ブライダルリングへの見方もきっと変わるはず!

原型師の仕事とは?

デザイナーが描き上げた平面のデザイン画から、立体の造型物を作り上げていくのが原型師の仕事だ。スタージュエリーでは、デザインルームと自社工房を近くに構え、常日頃から密接なコミュニケーションを大切にしている。専属の原型師がいるからこそ、デザイナーの想いに忠実に、あるいは、さらにふくらませ、ジュエリーを作り上げることができる。「デザイナー×原型師」――このふたつの高度なクリエイティブの調和こそが「本物のクラフトマンシップを生み出せる」とスタージュエリーは強い信念をもっている。
「プラモデルを作ったり絵を描いたりと、子どもの頃から何か物を作ることが大好きでした」と話す川村仁は、25年以上この仕事に携わる原型師のプロフェッショナルだ。扱う素材についての深い見識と、精巧な意匠を作り出す高度な技術が必要とされる仕事。なによりも、その仕事を支えているのは長いキャリアで培った高い経験だという。

「“感覚”という、言葉で説明するのが難しい手業が、原型づくりではとても重要です。指先で感じるもの、目で見て、また作っていくうえで感じる微妙な形の差異など。これは教えられて身につくものではありません。実際に何万個もの試作や完成への経験を重ねて、職人ひとりひとりが、自分なりの物差しを日々磨いています」

そして、原型師の仕事でもうひとつとても大切なのは、想像力、すなわちイメージする力だと川村は言う。「デザイナーから、新しいデザイン画を受け取ったら、まず、そのデザインに込められたストーリーやコンセプトをしっかりとヒアリングして製作へと着手します。2次元から、3次元に昇華させるうえで、意匠の表現や技術的に難しいなど、壁に当たることが必ずあります。その時はもちろん、デザイナーと意見を交わしながら答えを探りますが、デザイナーの抱いたコンセプトからイメージを膨らませて、素材のもつ特徴や、光、輝きの見え方など、技術者としてできる表現方法を積極的に提案することも、原型師の大切な仕事になります」

ひとつのリングが誕生するまで


では、原型師によって、ブライダルリングはどのような工程で作られるのか。第一ステップとしては、原型を作る作業がある。川村がまず取り出したのは厚さ2mmほどのシルバーの板。指輪の幅に合わせて糸ノコギリで勢いよく切り出していく。次に、切り出されたシルバーの棒を、バーナーの炎で熱して、柔らかくして曲げていく。熱して形を整えて、水につけて冷却。その工程を繰り返し重ねることで、みるみると丸みを帯びた指輪の形に。


つなぎ目をろう付けして、溶接部分をハンマーで叩いて整形する。大型の電動サンダーで表面を整え、細かい部分は、金属性のヤスリを使い手作業で削り出していく。取材用のデモンストレーションとしてひとつの流れを見せてもらったが、シルバープレートから、指輪の形になるまで、およそ30分弱。魔法にかけられたように手際よく作業は進んでいくが、実際はこの作業に2日程を要するという。

「私はこのように最初からシルバーを使って原型を作ることが多いのですが、最近は、CADを使ってコンピューター上で立体化するスタッフも増えています」。CADを用いる場合は、パソコンの画面上でモデリングが完成したらそれを3Dプリンターで出力すると、原型が樹脂ワックスで出力される。ワックスを削り、調整するなど、細かいところは必ず手作業だ。いずれにしても、原型づくりは、原型師とデザイナーがリングのフォルムを全方位からチェックし、この後の進行、完成図を予測し、見極めるとても大切な過程だ。

原型が完成したあと、鋳造(キャスト)を経て、ファーストサンプルづくりに入る。
「サンプルの段階では、素材の光り方やサイズ感をデザイナーと細かくチェックしていきます。この段階まできても、また原型に修正を加えて、やり直すこともあります」
地金に金属光沢を出すための磨きをかけて、ダイヤモンドなど石留めをし、リングのファーストサンプルが完成していく。原型師とデザイナーは、ひとつのリングの完成までに平均して5、6度の細かい打ち合わせを重ね、2ヶ月ほどの時間をかけるそう。「何十年もこの仕事をしていますが、製品のサンプルができあがるときは、毎回本当に嬉しいですね!」

譲れない想い

スタージュエリーは、ブライダルリングのデザインに加えて、つけ心地の良さや強度も重視している。原型師としては、クオリティを高めるためにどのような工夫をしているのだろう?
「デザイン画を見て、そのままだとリングが曲がりやすかったり変形しそうだなと思ったら、率直にデザイナーに伝えて解決策を考えます。また、毎日使ってくださる方のことを想像しながらリングを作るようにしています。つけたときの指馴染みの良さは、自分の感覚やセンス、そして経験が頼り。自分の手を離れて生産体制に入ってからのさまざまな人や機材の特性に合わせて、原型を0.1mm単位の世界で作り分けるなど、かなりマニアックな仕事ですよ(笑)」

リングのつけ心地を決める、リングの内側に施した甲丸と言われる緩やかなカーブの仕上げ。実は、レディスとメンズで、そのカーブのニュアンスも微妙に変えているという。「普段から、リングをつけ慣れている女性に比べて、ブライダルリングではじめて、リングをつけるという男性も多いんです。その分、男性のほうがリングの指馴染みを気にされることがあります。もちろん、レディス、メンズともに、毎日つけるという点で、内側の仕上げには一番気を配っていますが、実は、メンズはレディス以上に細部の仕上がりに目を光らせています。一生ものとして長く愛用していただきたいですからね!」







